思い過ごしも恋のうち

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休日出勤だった土曜、ぐったりと疲労した末帰宅した。
鍵を開けて部屋の中にはいると人の気配がない。
居候はまた遊び歩いているのか。
そいういえば昨日も居候は帰らなかったが、アケミさんも店にいなかったな
そんなことをつらつら思い巡らしながら、蛍光灯をつけた。
部屋の隅で黒いものがうずくまっている。居候だ。
「…?」
居候は頭を抱えてウンウン言っている。
「…どしたの?」
居候は左頭が痛いという。
左頭ってなんだと思うのだが、偏頭痛というか眼底がズキズキするような
そういう痛みだという。
「脳腫瘍かも知れぬ」そら恐ろしいことをさらりという。
「病院行こうよ」不安になってきてそう告げる。
「うむ…」なぜか及び腰だ。
「ノーシュヨーなんてまずいよ。たまんないよ」不安が募る。
「若造」居候は顔をしかめながらぼくを見上げた。
「?」
「頼みがある」顔を歪めながら懇願の体だ。
「…なにさ」こんな時なにを言い出す?
「海に蒔いて欲しい」
「なにを?」
「もしオレ様が死んだら、骨は海に蒔いて欲しい」
「…」
「わずかだが残した財産は…たか…」
「…なんだよ?」
居候は再び頭を抱えてうずくまった。
「ちょっと!」
うーと言ったまま歯を食いしばっている。
「歩ける?救急車呼ぼうか?」
「構うな」
「構うよ」


表に出てタクシーを拾い居候を押し込んで救急病院へ向かった。
肩を貸そうとすると一人で歩けると言って突っぱねる。
無理をするなと言おうと思ったが、タクシーを降りると確かに
スタスタと歩いていった。
保険証がないことやらなんやらでぼくが受付でもめているのを後目に
居候はスタスタと診察室に入っていった。
ぼくも後に続こうとしたが「外でお待ちください」とドアを閉められた。
「…」
薄暗いロビーで黙って待っていると良からぬことばかりが脳裏を巡る。
なにか言っていたな…。『残した財産は』のあと。
『たか』?たかってなんだ?
どれくらいそうしていたのか。
恐らくそれほど長い時間ではなかったのだろうが、不安を感じながらの
時の経過は存外緩慢だった。
診察室のドアが開いて居候が出てきた。
「…!」ぼくは立ち上がり居候を目で追う。
こちらを見向きもせず、受付へ行き「かまわん」「無用」を何度か繰り返す問答の末、
カードで支払いを済ませると、さっさと玄関を出ようとしている。
「ちょっと待ってよ」慌てて後を追う。
自動ドアをくぐり、居候は歩を早める。
「なんだったのさ?大丈夫なの?」
「心配無用」
「原因は?なんの病気なのさ?」
「これ以上構うな!」
居候はほとんど走り出さんばかりのスピードで離れていった。
「なんだよそれ」訳が分からず見送るばかりだった。
居候の診察結果はこういうことだったらしい。