さよなら夏の日

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一身上の都合という理屈にかなっているのかどうなのか分からない理由で
昨日、片柳さんは早退した。
今朝連絡があり突然で済まないが有給休暇を頂きたいという。
今夕通夜、明日告別式を行いそのまま火葬ということである。
犬の。
片柳さんの飼っていた愛犬が天に召されたんだそうである。
その詳細を聞いて課長は一瞬声を荒げそうになったが、憔悴しきった様子を
受話器からも感じたようで、渋々の体ではあったが了承していた。


亡くなった愛犬というのは柴系の雑種だったようだが、実に15年間の生を
全うしたらしい。
書物のページを折ることとは別の使い方で俗に「ドッグイヤー」などと言って
人間の1年は犬の7年分に相当するということらしいが、それで換算すると
犬の15歳は人間の105歳ということになる。
大往生である。
長いつきあいで他人には分からないこころの結びつきもあったであろう。
悲しみもひとしおのことと忍ばれる。
平素特に無差別な愛犬家ぶりを見せていた片柳さんではなかったので、
今回の熱心な供養の様子は周囲を驚かせた。


ぼくは愛玩動物を飼育するといった経験の少ないほうである。
小学生の頃に家にインコがいた。迷いインコが窓から飛び込んできたのを
そのまま飼っていたものであったが、これも長生きした方ではないか。
父親の転勤が多かったその頃ではあったが、籠に入れたまま4回ぐらいは
引っ越しにつきあわせた。
雌だったのでペットショップで雄を別途購入しつがいにさせようとしたが、
なかなか馴染める相手が見つからず、雛の姿を見ることはなかった。
ぼく自身、鳥というものにあまり興味がなかった。さしたる思い出はないが
記憶を辿ると、籠を覗き込んだとき首を180度近くまでひねって見上げようとする
様が滑稽で愛おしかった。
その後はハムスターを飼っていたことがある。これも知人から譲り受けた。
いわゆる獣臭を嫌った母親には評判が良くなかったが、見つめてみると
愛らしいその姿は誰のこころも和ませた。
このハムスターも1匹ではかわいそうと雄を購入して仲間をつくってやろうと
したが、元来なわばり意識の強い齧歯類なので、熾烈な拒絶、攻撃に合い、
到着2日後には噛み殺されてしまった。
ハムスターはその後あまり長生きはしなかった。


動物を飼うということに多少疲弊を感じ、ハムスター以降はペット
は持たないかった。
それがいまや、一回り以上歳上の厄介なペットがうちにいるわけだ。
なにやら威丈高で屁理屈は言うし、酒も飲むし。
あれを愛玩する気にはとてもなれない。