つゆ

じとじとと気持ちの悪い雨の一日。
下馬評(この使い方でいいの?<居候)によれば
関東地方は梅雨入りしたんだかしそうなんだとか。
四季はそれぞれいいとことやなとこがあるけど
梅雨ばっかりはいやなことしかないね、個人的に。
農作物へのめぐみの雨、ありがとう!
猛暑に向けて水瓶を満たす雨、ありがとう!
…でもね。
べたべたするし、満員電車は暑いし臭いし、
同僚の山田の水虫は悪化するし、洗濯物が生乾きだし。
やりきれないね、これからの1〜2ヶ月のことを思うと。


つゆの思い出というと、
麦茶だと思って一気に飲んだらそばつゆだった…
じゃなくて。
居候のこと。
ヤツがうちに転がり込んできたのは、
なんていうの、狐の嫁入り?スコール?なんかそんような
もの凄い強烈なにわか雨が降ってきた日だった。
ちょうど本屋からの帰り道でその大雨にぶつかって、
雨宿りとか逃げ込むヒマもなく、2秒でずぶ濡れ。
買ったばっかりの白いコッパンは車の水ハネ受けて
バルーンドット柄になっちゃうで、もう途方に暮れちゃって
のろのろ歩いて帰った。
そういえば洗濯物干してたな、と思いだしてベランダの方を見上げると
物干し竿に黒い大きな布が掛けてあってその中で誰かがモタモタやってる。
なんだろう?と思って
「なにやってるんですか?そこ、ぼくんちなんですけど」
すると黒い布がおろされて、中からぼくの洗濯物を両手一杯に抱えた
居候(そのときはまだ居候じゃないけど)が現れて
「この洗濯物は貴様のものか?」と訊く。
「そうだけど…」
「雨が降ってきたら洗濯物は取り込め!」と怒鳴る。
「だって出かけてて…」
「たとい、出かけていようとも取り込もうとする努力を見せよ。出先から必死に走って帰ってくるものだろ?」
なんだかどうでもいいようなことで叱りつけてくる。
「だって、あっというまにずぶ濡れでしょ?あきらめてるよ」
ぼくがそっぽ向いて答えると
「あきらめるという言葉を使うな!なにごとも全力でやれ!」
恥ずかしくなるようなことを大声で叫ぶ。
「近所迷惑だから静かにしてください」
「んなことはいいから、早くここを開けなさい!」
慌てて部屋に戻り、ベランダの窓を開けた。
「判断が鈍い!」
「あ、すいません…」
ともかくヤツのおかげで洗濯物は助かった。
ワイシャツを全部洗っちゃってたから、
濡れちゃってたら明日着るものがないってんで、ホントに助かったんだけど。


よく分からないが、ヤツが言うには
自分の寝台で寝ていたら、いきなり投網のようなものに巻かれて
もがいていると、煙突のような井戸のようなところに放り込まれ
真っ暗な中を転げているうちに気を失い、
気がつくとぼくの部屋のベランダにいたんだそうだ。
で、そこへにわか雨が来たのでとるものもとりあえず
洗濯物を取り込んだ…と。
うそつけ。
ホントは下着ドロボーかなんかしようとしてたら
ぼくに見つかって、都合良く大ボラふいてんじゃないの?
全然本気で取り合わなかったけど、まぁ洗濯物を救ってくれたし
少しお礼のつもりでメシを食わせてあげて、なんやかや話して…。
そのまま居着いちゃったんだよね。
今思い出してもいったい何だったんだろうと思うけど。


ぼくも人が良すぎるかな。
でもまぁ、なんだか退屈な毎日だったから
こんなのもアリかな、と。
そういうトンデモな居候なら
一般的にはご主人の願いを聞くもんだろ?
ねぇ居候、梅雨のない国をつくってよ。