世界中の誰よりきっと

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「お前は絵に描いた餅なんだからさぁ」
しつこく飲みに誘うのを断るのに疲れて黙っていると、隣の席の山田が言った。
「は?」僕は眉をひそめた。絵に描いた餅…?
「なんての?いるだけでいいっていうか、意味があるっていう」しどろもどろだ。
「絵に描いた餅ってのは『実現しない、意味のないもの』ってことだろ?」
ぼくはぴしゃりと跳ね返した。
「だからさぁ」山田はまるで気に留めず食い下がる。
「他のやつに頼んだって馬の耳に念仏なんだもん」
「は?」糸がもつれた。
ぼくらはお互いを見やり同時に
「馬の耳に念仏」
聞く耳持たず」
「ああ、それだそれ」山田は指をさす。
「取り合ってくれないのね」
「とにかくさ、キムちゃんはもう一人連れてきたらOKよ!って
言ってくれてるんだから」いつからか山田は喜結目さんを
『キムちゃん』と呼ぶようになっている。
「それさ」ぼくは覗き上げるように山田を見て
「二人きりはお断りって言われてるんだろ?」
「ものは言いようだよ」
「それも違うだろ」呆れる。
「もう一人いたら俺は暴走しないじゃん」
「暴走しそうだって見透かされてるんだろ」ぼくは吹き出した。
「守るが勝ちっていうだろ」…?。
「…負けるが勝ち、か?それ」
山田は意に介さず
「まずはさ、既成事実を作っちゃうんだよ」
「また穏やかじゃないね」もう構いきれない。
「とにかく飲み屋に連れてこれれば、後は野となれ山と…」
「やけくそかよ」終わらないうちに水を差す。
「俺と差しちがいで一杯飲めばキムちゃんだって、きっと」
「大丈夫かねぇ、生きてるかねぇ」もう山田を見ない。
「俺のホルモンにイチころだぜ」
「しまっとけよ、そんなもの」
「とにかくっ!」山田はぼくの肩を掴んで向き直らせた。
「お前を男のなかの男と見初めてるんだ、たのむ!」
気色立った目でみつめる。
「…やめてくれよ、見初めるのは」


それぞれの世界はそれぞれの宇宙で回っている。