さよなら人類

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二日酔いというものをはじめて味わった。
なるほど大きな音は頭の中にガンガン共鳴するし、満員電車でのつけすぎの
香水などには平素にも増してえづきをおぼえる。
なにか喉から鳩尾あたりまで、拒絶反応を起こしている他人の臓器を
移植されたみたいな異物感だ。
それでも「スカーラ」からの帰り道は結構上機嫌で、風説に聞く
酔っぱらいの真似事を楽しんだ。
道すがら屋台のラーメン屋があったので、飲んだ後のラーメンは最高だよね
などと分かったようなことを言いながらみそらーめんなどを胃に収めた。
コンビニによってできるだけ平べったい折の弁当を求め、袋の口を結んで
指に下げてブラブラ振り回しながら鼻歌を歌ってみたりした。
咳をしてもひとり 山頭火か?
ひとしきり楽しんだ記憶があるが、今朝の二日酔いで帳消しだ。
もう二度と酒なんか飲まない…通例であるこのことばを吐くところまで
辿り着いて一連の酔っぱらいの真似事には終止符を打とう。
馬鹿は楽しい生き物である。



「お前、飲めるようになったんならつきあえよ」
ぼくの二日酔いが相当珍しいのか、山田はなにかと絡んでくる。
来るだろうなと予想の付いていた展開。
「実際、お前は人畜無害だけど飲めないヤツが一緒だとシラケるんだよな」
あんまりな言われようだ。連れてけと頼んだ覚えはない。
「ま、一緒に飲んでればさ、それなりに盛り上がるかも知んないし」
デスクの抽出からシジミエキスの錠剤を出してぼくにくれた。
「そいつでカラダ作って、今日はつきあえよ」
断ろうとしたら、すでに喜結目さんのもとへ駆け寄っていた。
とてもじゃないが酒は無理そうな体調だ。
でもまぁ家に帰ってもすることがないし、つきあってもいいかななどと
少しばかりその気になっていた。
山田の誘いを聞きながら喜結目さんがぼくを見る。目が合った。
喜結目さんは山田の方をむくと、なにごとかきっぱりと告げた。
「?」なんなんだろう。
「お前が来るなら断るっていわれたぞ」憤慨の矛先をぼくに向ける山田。
なぜだろう、思い当たる節がない。
「お前なにかしたのかよ」滅相もない。
なんだろう、あれだろうか。先日のハゲ会談で親身になれなかったことで
疎ましく思われているのだろうか。それはそれであんまりだ。
ぼくとてハゲビギナーである。同じ痛みを抱えるものへ慈しむ気持ちよりも
むしろこのことには触れないでおいてくれと願う若輩なのだ。
喜結目さんの艶やかな長い髪の後ろ頭を見やる。
あの美しきたゆたいの奥には、凶悪な不毛地帯が潜んでいるのだ。
ハゲがハゲを疎んじたなら誰に心を開くのか。
世の中って人情ってそんなに薄っぺらなものなのか。
やめよう。悲しくなる。
いつの間にか山田はぼくに見切りをつけて、課長に誘いを掛けている。
山田にも反古にされてしまったか。
自らの寄る辺なき身の上をまざまざと知る。
咳をしてもひとり 山頭火か?